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ブリッジズ・イン・ペーチェ2010 |
芸術、音楽、科学と数学のかけ橋となる国際会議
ブリッジズ・2010イン・ペーチェ、ハンガリー |
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2010年7月24日~28日
報告:前畑 典子 |
1998年以来毎年世界各地で開催されてきた数学とアートを結ぶ国際会議、ブリッジズが、今年はハンガリーの古都、ペーチェで開催され、
参加者は世界各地の数学者、アーチスト、建築家など約240名、展示の出展者は100名余り、出展作品は200点に上る過去最大規模の会議となりました。
イメージミッション木鏡社は、新製品のジオボールを携えてこの会議に参加しました。
会期中には、ゾムツールの大型モデル構築ワークショップも行われました。会議の様子をお伝えします。 |
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会場となったペーチェ市は、ハンガリーの首都ブタペストから車で約3時間ほど南西に位置しているパラニャ県の県都です。初期キリスト教徒の墓地遺跡が世界文化遺産に指定されており、その遺跡を残したまま、跡地が美術館になっています。どんな町か十分に下調べもできないままブタペストの飛行場に降り立ちました。日本からパリ出乗り継いで17時間。迎えの乗り合いタクシーに乗り込むと、英語を話さないハンガリーの中年の女性が2人、イギリスへの出稼ぎからの一時帰国の若者が1人に私と、合計4人の乗客がボルボのワゴンに荷物と一緒に積み込まれ、ペーチェに向けて出発しました。乗り合いタクシーは、よく整備された道路をドナウ川に添って南下しました。 |
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会場となったホテルパラティナスに到着したのは、夜中の3時ごろ。乗客を一人ずつペーチェ市内のそれぞれの家に降ろしながらホテルにたどり着きました。イギリスに出稼ぎに行っているという若者は、ハンガリーには仕事がないので、同郷の友人数人でロンドンに家を借りてタンクローリーの運転手をしているそうです。ペーチェの郊外にある彼の家では、かわいい奥さんと9歳の女の子が待っていました。奥さんも娘さんも、ハローキティが大好きなのだそう。
ヨーロッパでも、キティちゃんは人気者のようです。 |
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翌朝、展示会場となっているホテルの地下ホールに行くと、もう既に到着した人たちが自分のアート作品を展示しています。
今回の展示数は過去最多数ということで、広いホールにはテーブルが所狭しと並べてあります。
日本から参加された京都大学の立木先生と大学院生の塚本さんと会場で再会。先生は、イマジナリーキューブを展示しておられました。
見る角度によって立方体になるという興味深い作品で、プログラムの中でもカラー写真で紹介されており、2日目には立木先生の招待講演もあります。
天井から吊るしたり、床に置いたり、実際に触ってもらえるようにテーブルの上に展示したり、到着したばかりの時差もものともせず、設営作業が進められていました。
ネフ社のクラシック、エリプソの作者、ハビエル・デ・クリッペレールさんも今回作品を出展していました。やはり白と黒の、広がる紙製のオブジェです。
ホーバーマンのように大きくなるこの作品は、とても美しく、迫力があります。ハビエルさんの新作についても、お話を伺うことができました |
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タイルデザインのコンテストも平行して行われています。右の作品は、オーロラさんのタイルデザイン |
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弊社の新製品、「ジオボール」も、展示会場内、テッセレーションの書籍テーブルに展示され、即売されました。アメリカのイスラムタイル研究家であり、デザイナーのジェイ・ボナーさんがデザインしたジオボールは、18の立体を紙で簡単に作ることができるイスラムタイルパターンをデザインした多面体キットです。ボナーさん自身も、以前ブリッジジズで招待され講演をしたことがあります。糊を使わないで多面体を作ることができるこのキットは、多くの数学者やデザイナーから大変好評でした。ブリッジズでは、英語の説明書を添付して販売したところ、大変好評でした。テッセレーションのテーブルでは、ロバート・ファタウさんの考案した幾何学ワークブックブックや、クリスティーナさんの、幾何学フラワー・折り紙の本も販売されました。クリスティーナ・ブルチェックさんは、「数学オリガミ」の作者。多面体の構造を基本に、美しい花の折り紙を出展していました。
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ハンガリーのアーチスト、Antal Kelle さん
の作品。木製で、生物のように動かすことができます。 |
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クリスティーナ・ブルチェックさんの多面体おりがみ |
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ハビエルさんが、塚本君の作った紙製多面体について
質問しています。展示者同士で既に交流が始まっていました。 |
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ハビエルさんの新作。
紙製で伸びたり縮んだりします。 |
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木片を彫刻して立体を彫りだしたエスペーセンさんの作品 |
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メイン会場は、ホテルパラティナスの二階にあるバルトークホール。
美しいステンドグラスや、ペーチェ市のジョルナイ・タイル工房による特別の柚薬を使った
陶器の飾りが歴史を感じさせます。
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24日朝から始まったレジストレーションでは、ホテルのホールに人が溢れかえり、参加者の多さを感じさせます。ペーチェ市での開催準備は、3年前から始められたのだそうで、3年がかりで準備が行われました。オープニングにはペーチェ市の助役さんや、ハンガリー最古の大学、1367年に設立されたペーチェ大学の学長さんがあいさつに立ち、ペーチェ市を挙げてブリッジズ会議を歓迎している様子がうかがわれました。会場で隣に座ったトム・バーンホフさんから、「日本では、いつやるの?」と聞かれました。いつの日か、ブリッジズが日本でも開かれたらいいなと思いました。 |
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今年のブリッジズは7月24日から28日までの5日間に渡り、市内の数箇所の会場を使って同時進行で論文発表
講演、展示、ワークショップなどが行われていく大変盛りだくさんのイベントとなりました。
夜には、才能ある数学者やアーチストによる音楽が演奏されたり、数学的ダンスの公演があったり
教会では期間中を通して世界中から集めた砂を使った幾何学模様を描く砂のアートが出来上がっていったりと
参加者もプログラムとにらめっこでイベントから目が離せません。
ジョージ・ハート先生は、ニューヨークで企画が進行中の、MOMATHという、数学とアートの博物館についてお話されました。
体験型の数学とアート、遊びがいっぱいの博物館を作るという、夢のような企画です。楽しみですね。ジョージ・ハート先生の背景に見える串団子のような光っている物体、これが、有名なジョルナイ・タイル工房で作られた陶器の飾りボールです。
会場になったホテルの大ホールの壁面全体に飾られていて、クリスマスの飾りのように、年月を超えて輝いていました。
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7月26日は、「ハンガリアン・ディ」、ハンガリーが誇るアーチストや数学者に続いて、エルノー・ルービックさんの特別講演がありました。有名な世界的ヒット商品、ルービックキューブを発明したルービックさんは、もとは建築学者。「もっともシンプルで、誰もが簡単に操作できるものを追及したらあの形になった。ヒットしたのは私の力ではなくたまたまそうなったんです」、と話されました。ハンガリーには有名な数学者や建築家がたくさんいますが、ルービックさんも、歴史に名を残すでしょう。ルービックキューブが1977年に発売され、日本では1980年に紹介されました。世界的な大ヒットとなりましたが、今でもルービックさんのところには、世界中からいろいろなバージョンが送られてくるそうです。日本でも、
岡本勝彦さんの考案した岡本キューブ・シリーズがありますね。ボイドキューブやスクランブルキューブ、難解なラッチキューブまで、いろんなバージョンが発表されました。是非お試しください。今年は、発売30年という節目の年だそうです。記念館のようなものを計画しようかという動きもあるそうです。下の画像は、にこやかに質問に答えるエルノー・ルービックさん。もっといかつい方を想像していましたが、小柄でやさしそうな方でした。
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インタヴューに答えるルービックさん 日本から参加したカスパー・シュワーベさんの発表 |
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ファミリーディには、沢山の数学的アートのワークショップが行われ
一般市民も含めて大勢の参加で盛り上がりました。
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日本から参加した塚本靖之さんは、「Plaided Polyhedraという、
短冊状に切り分けた紙を編みこんでつくる多面体のワークショップを行いました。
彼の作った小さな多面体は、参加者の驚きの的でした。
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マカロニとか木の実を使って作る幾何学アート |
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クリスティーナさんのご主人による多面体折り紙のワークショップ。
簡単にお花のような立体が出来上がります。私にも簡単に作れました。
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和紙の折り紙で作ったクリスティーナのお花と、「折り紙と数学」という著書 |
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ゾムツールのワークショップも、会場の一角でスタートしました。大勢の参加者が、イスラムタイルパターン作りに参加してくれました。
設営の場所となるペーチェ市内の教育センターにその全てのパーツを運び込み、夜中までかかって
完成させたモデルがこの、作品番号116です。ノードとストラット全てをレインボーカラーに統一して
黒の土台に設置した美しいモデルが完成しました。作品のデザインは、ポール・ヒルデブラント氏とマーク・ペレティエ氏です。
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ポール・ヒルデブラント
日本語の解説はこちらをご覧ください。 |
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これが、フェイスブックのゾムツールパージに掲載された116号モデルのスケッチです。
美しいレインボーカラーに注目。そして見る角度によって球体の切断面を構成する
イスラミックパターンの平面タイルが交差するのがはっきりと見えます。
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出来上がってきたタイリングのパーツ |
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オパーツオイ教育センターに設置されたゾムツールの大型モデルを鑑賞するブリッジズの参加者たち。 |
中心も美しい対称形になっています。 |
風船で多面体を作るワークショップをした、ヴィー・ハートさん。ニューヨークの冬、外は雪で何もすることがない退屈な日に思いついたのだそう。ワークショップでは、風船を使った巨大テトラヒドロンもできました。ブリッジズでは、バルーンアートも数学の題材になります。 |
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ペーチェ・カテドラルの地下では、エルヴィラ・ウエルシェさんによるサンド・アートが作られていました。床一面に、世界中から集められたいろいろな色の砂で幾何学模様を作っていきます。最後にはその砂を全部混ぜ合わせて、参加者に一袋ずつ持ち帰ってもらい、地球に戻すというセレモニーが行われました。 |
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ゾムツールを使った発表もたくさん行われました。
左の画像は、ゾムツールの模型を展示して
「六次元の立方体」という発表を行った
ペーチェ大学工学部のラズロ・ボロス教授。
発表の後、聴衆から質問を受けています。 |
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盛りだくさんのブリッジズ・イン・ペーチェも、5日間で無事終了しました。ジョージ・ハートさんが、「こんなに沢山のプログラムと思っていたけれど、もうすぐ終わりだね」
終了間近に残りの時間を惜しむように話されたのが印象的でした。
会期中は目の回るような忙しさと興奮の連続でした。ハンガリーのペーチェという初めて訪れた町からは
オスマントルコに征服され、オーストリアに併合された時期もあったハンガリーの一都市の歴史や文化についても学ぶことができました。
画像は、ゾムツールの作品116号を設計したポール・ヒルデブラント氏と、最後まで組立てに参加したアーチストのオーロラさん。
右の画像は、陶器博物館にもなっている、陶板タイルで有名なジョルナイ家の庭です。来年のブリッジズは、ポルトガルの古都、コインブラで開催されます。
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