2011年ノーベル化学賞
準結晶とゾムツール
イメージミッション木鏡社 会長
ノーベル化学賞は、準結晶を発見したイスラエル工科大学のダニエル・シェヒトマン博士が受賞することに決定した。
既に多くの人がインターネットで準結晶について何がしかの知見を得たに違いない。
私がここで改めて浅学の非をさらす必要もないであろう。ゾムツールを扱い始めて何年か経ったある日、今から8年ぐらい前に、京都大学で数学の立場から準結晶を専門に扱う数学者グループ、(今は京大からほかの大学に移られたSA先生)から商品の展示を頼まれたことがある。
京大の古い校舎の中で横に長い黒板、それも下から引っ張り出すと合計4枚になろうかともいう黒板で、その黒い面がチョークで数式と英語でいっぱいになっていく講義を聞かされる羽目になった。
その時私は今でいう、パット型のコンピューターがあればいいのにとおもった。こんなにたくさんの情報がどんどんと消されていく事のもったいなさ。後で検証したりとか記憶させたりとか・・第一チョークに汚れなくていいのにとか考えていた。
ペンローズタイルにヒントを得た、バナナという商品が先生たちに売れた。準結晶が、それまでの物質感の転換を迫るものであることを聞いたのはそのずっと後、結晶の専門家、平田先生からであった。先生にはゾムツールの赤ストラットをたくさん買っていただいた。
準結晶が5回対称性と関係し、ゾムツールがこの性質を持つモデルをつくるのに最適であることを教えてくれたのは、石井さんと宮崎先生たちであった。
今回の受賞はまるでゾムツール関係者が受賞したように感じられて私も本当にうれしく、関係者たちの名刺を一枚一枚見つめなおしている。
準結晶とは
結晶の定義
今回の受賞理由となった準結晶について、私達なりに理解をしようと、参考資料をまとめてみました。
準結晶が発見されるまで、個体には2種類の状態しかないと思われていました。
結晶とアモルファスです。
結晶とは原子や分子がきれいに並んでいる物質の事を言います。結晶の並びはどこまで行っても同じ様に並んでおり(並進対象性)、同じパターンを繰り返しています。(これを長距離秩序と言います。)
例:ダイヤモンド、氷
それに対し非晶質(アモルファス)という物質は短い距離でのみ並びが秩序立っている状態をいいます。(これを短距離秩序と言います。)
例:ガラス
1960年のアモルファス発見から、固体物質の分子構造はこの2種類のみと信じられ続けていました。
しかしその常識を覆す第三の状態と言える構造が、今回ダニエル・シェヒトマン教授が発見した準結晶です。
準結晶とは
『並進対称性と周期性を欠くパターンでありながら、空間を埋め尽くすことができる長距離秩序のある状態』
の個体を言います。
準結晶の発見
1982年、シェヒトマンは液状のアルミニウムとマンガンの合金を急冷したものの回折像を解析した時、結晶ともアモルファスとも異なるパターンを発見しました。
今までの考えでは配列パターンは1~4回、6回の回転対称性しか考えられていなかった事に対し
この回折像は5回の回転対称性を有していたのです。
しかし、当時の常識からは余りに外れた発見だった為、周りの人からは受け入れられず
シェヒトマン教授は、所属していた研究グループから去る様に通達されてしまいました。
構造の決めて
このシェヒトマン教授の発見が正しいと確信を抱いたのはペンローズタイルと呼ばれる図形がきっかけでした。
これは物理学者のロジャー・ペンローズが考案したデザインパターンで
黄金分割比を基調とする2種類のタイル(ここでは大小2個の菱形)により作られ
「5回軸対称性をもちつつも非周期的であり、しかし平面をあますことなく埋め尽くすことができる」
という特性を持っています。
これはゾムツールを使って作成したペンローズタイルの図です。2種類の菱形図形が五回転対称性を保ちつつ、非周期的であり、しかし平面を埋め尽くしている様子が分かります。
これにより「非周期的で5回転対称性をもつパターン」が実在する事を証明したシェヒトマン教授は
自身の発見した結晶を準結晶(quasicrystal)と命名し、その存在を確固たる物にしました。
準結晶の可能性
今回、ノーベル賞の受賞に至った準結晶は結晶学の定義を大きく揺るがした発見ですが、
研究としては基礎的な位置になり、まだまだその特性は解明されておらず研究が続けられています。
その為、具体的な特性や応用方法までは発展していません。
ただ、結晶とアモルファスの”中間的存在”と考えられている事から、両者の中間的性質を持つと考えられています。
現在分かっている性質として
・金属として電気抵抗が異常に高い。
・温度が低くなると抵抗が上昇する。(通常の金属の性質と逆)
・摩擦係数が低い。
等があり、それを活かす研究としてハードディスク駆動装置の軸受けや、高温で使う機械部品への応用が期待されています。
また、
・熱に強い
・固い
という特長を活かした新素材開発も盛んです。
最近の新聞記事によると、本田技術研究所と東北大学金属材料研究所の共同研究チームは摂氏300~400℃の高温でも高い強度を保つ自動車用ディーゼルエンジンの部品を目指しており、現在取り組んでいるのは、結晶構造が異なるアルミニウム合金の組合せだそうです。
面心立方格子(FCC)という立方体の結晶の中に、20面体の形をした準結晶のアルミ合金が散らばっており、アルミを含む6種類以上の元素を混ぜ、アルミ・鉄・クロム系準結晶を成長させます。
最終的に合金の体積の約70%が準結晶を占めます。
まだ研究段階の為、生産技術とコストで課題はありますが、近い将来の実用化を目指しているそうです。
しかし、準結晶の研究はまだまだ始まったばかりで、解明されていない事も多くあります。
もしかしたら将来的には、想像を超えた物質が見つかるかもしれません。
【今回の記事を書くにあたり以下のサイトを参考にさせて頂きました】
ウィキペディア
準結晶 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%BA%96%E7%B5%90%E6%99%B6
また、こちらのサイトからは画像も使わせて頂きました。
https://www.chem-station.com/blog/2011/10/2011-2.html
https://www.asahi.com/science/update/1005/TKY201110050392.html
参考文献
日経産業新聞 2011年10月10日(月曜日) P7